熟年とか高齢者と呼ばれる世代になったら遺言は早めに作っておきましょう。誰でも自分はまだ大丈夫だと信じていますが、本当にいつ何が起きるか分かりません。「遺言書を書こうかな。」「そろそろ遺言書を用意した方がいいかな?」と思ったら、そのときが遺言書を書く時期です。遺言書を書くのに早すぎるということはありません。何ごとも早めに準備をしておいて悪いことはないのです。遺言書は何回でも書き直せますし,一度遺言書を書いてみれば作り方も理解できます。書き直すのも簡単にできるようになります。とりあえず遺言書を準備しましょう。ただし、後で書き直すことは可能ですが、書き直されるまではその遺言書が有効ですから、あまり変な遺言書を書いてはいけません。遺言書の内容はきちんと考えましょう。
遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。まずは手軽な自筆証書遺言を書いてみるのがいいでしょう。実はその他にも,秘密証書遺言(970条)、成年被後見人の遺言(973条)、死亡の危急に迫った者の遺言(967条)、在船者の遺言(978条)、船舶遭難者の遺言(979条)などの種類があるのですが非常に特殊な遺言で一般的ではないのでここでは扱いません。
自筆証書遺言(民法968条)とは、遺言書の全文、日付、氏名などを全て自筆で書いて作るものです。自筆ですからワープロ(パソコン)で印刷することはできません(この点は目録部分だけはパソコンで作成することができるようになりました)。後で書き直せるような鉛筆で書いてもダメです。日付は必須の条件で、印鑑の押印も必要です。このときの印鑑は実印でなくてもかまいませんが、実印の方が信用性が高まるでしょう。また、どの財産を誰にあげたいのか明確でないと意味がありませんので、不動産などが複数あるときは表現の仕方に気をつける必要があります。自筆証書遺言は方法としては簡単なのですが、内容を正確に作らないと法律上、無効になってしまいますので難しい面もあります。また、自筆証書遺言は、後で「当時、被相続人は遺言をするだけの精神的能力が無かった。」として効力が争われる場合もあります。弁護士に遺言の具体的な書き方を相談しましょう。自筆証書遺言を保管する制度もできました。
公正証書遺言(969条)とは、公証役場に行って、公証人という専門家に遺言を作ってもらうものです。多少の費用(数万円以上)はかかりますが、正確であるし遺言の成立について非常に効力も強いものです。当事務所では、相談者の方の住所やご希望内容などに応じて、相談者の方に便利な場所にある公証役場など、いくつかの公証役場に依頼しています。公正証書遺言の作成を引き受けることもしていますのでお気軽に相談してください。
自筆証書遺言にしろ公正証書遺言にしろ、遺言で自分の財産の死後の処分を決めるには、そもそも自分が持っている現在の財産を調べておくことが必要になります。不動産であれば登記の全部事項証明書、預貯金であれば通帳の表紙などを見て財産一覧表を作っておくことです。
本来、被相続人は遺言で自由に財産を処分できるのですが、相続制度は遺族の生活保障や潜在的持分の清算という機能を有しているので、その両者の調和を図ろうとする制度です。遺留分権者は、他の相続人に遺産を相続させるという遺言があっても、遺留分を行使すると一定割合の遺産だけは相続することができるようになります。つまり、遺留分は遺言があることが前提で、その遺言によると自分のもらえる物が少なすぎるときに遺留分を行使するのです。相続法の改正で遺留分の性質等が大きく変わりました。
改正前の法律では遺留分は物権的効力を認められていました。それが債権的権利(金銭請求権)に変わりました。
これまでも遺留分が問題になるときは不動産などの遺産そのものを請求することよりも金銭請求をすることが多かったので、実質的な変化は少ないでしょう。しかし、以前は遺留分によって不動産登記もできたのに、できなくなりました。そのため遺言などで不動産を相続した者がその不動産を処分してしまうことを防ぐためには、仮処分などの手続きをすることが必要になりました。
改正法による 新しい遺留分制度は2019年7月1日から施行されています。このときから後に発生した相続には改正法が適用されます。
遺留分が認められているのは兄弟姉妹を除く法定相続人です。つまり、配偶者、子供、直系尊属である相続人が遺留分権利者となります(1028条)。
遺留分として認められる割合は法定相続分に対する割合で決められています。
①直系尊属のみが相続人である場合は3分の1(注 民法上の相続分の3分の1はもらえるということ)
②その他の場合は2分の1(法律上の相続分の半分になります)
なお、民法上の相続分は次のとおりです(民法900条)。
1号 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は各2分の1とする。
2号 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は3分の2とし、直系尊属の相続分は3分の1とする。
3号 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は4分の1とする。
まず、遺留分は1年以内に意思表示しないといけません。遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅します。
また、遺留分侵害額請求権は金銭債権になったので、それから5年間で時効消滅してしまいます。2020年4月に施行される債権法改正(民法改正)により債権の消滅時効が10年から5年に短縮されるので、この点も注意が必要です。
相続から10年経過したときも時効により消滅してしまいます(1048条但書)。
遺留分権行使の意思表示(遺留分侵害額請求の意思表示)をすることによって遺留分侵害額に相当する金銭の支払いをすることができる権利が発生します。これを「遺留分侵害額請求権」といいます。これまでの法律では「遺留分減殺請求権」と言っていましたが、効力が債権的効力に変わると共に名称も変わりました。(1046条)。
相続開始前(被相続人が亡くなる前)に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可を受ける必要があります。被相続人から既に充分な贈与を受けていたとか、遺言で一定の物をもらうことになったなどの理由があるときに、相続開始前の遺留分放棄がなされることが多いようです。ただし、遺留分を放棄しても相続を放棄したわけではないので、相続分は残ります。
被相続人の生前に家庭裁判所の許可を受けて行った遺留分の放棄を撤回することは難しいことですが、それを認めた家庭裁判所の先例があるので全く不可能ということではありません。手続的には、家庭裁判所が行った許可の審判の取消を家庭裁判所に請求することになります。ただ不可能ではないとはいえ,とても難しいことですので遺留分を被相続人の生前に放棄するときはくれぐれも慎重に考えてから行ってください。
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弁護士 安田英二郎
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